10月に入り東京の住宅地を歩いていると、気づくことが
ある。甘いキンモクセイの香りがあちこちからほのかに流れ
てくるのである。まずその香りで気づき、それから周囲を見
回し、小さな検色の花をいっばいつけた立木を見つけて「あ、
こんなところにも……」と思う。その木の数の多さに驚かさ
れるのだ。きっとあの家の人もこの家の人も、この芳香を楽
しむためにキンモクセイを植えたのだ、と思う。そして、会っ
たことのないその家の人に、“同類”としての親しみを感じる。
私の家の庭にも、背の高いキンモクセイが1本立ってい
る。しかし西側の竹林の脇にあり、楓などの広葉樹に覆われ
ているため、日照が足りなくて花をつけない。それでも、こ
の時期になるとどこからともなくあの芳香が漂ってくる。妻
に聞くと、隣の家にあるのだという。今年の3月、私の家
の北側の花壇に手を入れたついでに、高さ1.2メートルほ
どの幼木をそこへ植えた。植えた年に花は期待できないと
思っていたが、条件が良かったのか、10月の初めに花をいっ
ばいつけてくれたので、妻と2人で喜んだ。その花は、今
はもう跡形もない。
ある。甘いキンモクセイの香りがあちこちからほのかに流れ
てくるのである。まずその香りで気づき、それから周囲を見
回し、小さな検色の花をいっばいつけた立木を見つけて「あ、
こんなところにも……」と思う。その木の数の多さに驚かさ
れるのだ。きっとあの家の人もこの家の人も、この芳香を楽
しむためにキンモクセイを植えたのだ、と思う。そして、会っ
たことのないその家の人に、“同類”としての親しみを感じる。
私の家の庭にも、背の高いキンモクセイが1本立ってい
る。しかし西側の竹林の脇にあり、楓などの広葉樹に覆われ
ているため、日照が足りなくて花をつけない。それでも、こ
の時期になるとどこからともなくあの芳香が漂ってくる。妻
に聞くと、隣の家にあるのだという。今年の3月、私の家
の北側の花壇に手を入れたついでに、高さ1.2メートルほ
どの幼木をそこへ植えた。植えた年に花は期待できないと
思っていたが、条件が良かったのか、10月の初めに花をいっ
ばいつけてくれたので、妻と2人で喜んだ。その花は、今
はもう跡形もない。